居合だましい

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第8話 第一章『形見草かたみぐさ

東根ひがしね刑部ぎょうぶのところへ通う門下生のうち、一番年嵩としかさ体躯たいくの良い少年が、民治丸の前に立ちふさがった。
父親の身分のおかげか、はたまた力づくのせいなのか、門下生のなかで彼に逆らう者を見たことがない。
いつも偉そうに、たくさんの取り巻きを従えて歩いていた。

刑部はなぜか、一対一の打ち合いの時、この年嵩の少年と民治丸を組ませることが多かった。
むろん、民治丸は一度も打ち勝ったことがない。

「民治丸。この道通って、どごさ行ぐ?」

「刑部さまのお屋敷だ」

少年たちが視線を絡ませる。
次の瞬間、民治丸と三郎は、少年たちに囲まれてしまった。
なんともいえず嫌な空気に、三郎は民治丸に身を寄せ、背中を丸めた。

「こごを通すわげにはいがねぇ。黙って帰れ!」

「おまえらに、そんなことを言われる筋合いはない」

「なんだと?」

少年たちが一気に殺気立つ。
じりっ、じりっと、二人に迫った。

「民治丸よ、おまえは自分がしたことが分がってねぇようだな。あろうことか、俺たちのお師匠様に真剣を向げだんだ。許すわげにはいがねぇ!」

「あれは刑部様が──」

「黙れ! そもそも、武士でもないおまえが、俺たちと一緒にいることがおがしいんだ」

「おれは武士だ! 武士の子だ!」

「ふん、武士があんなに無様ぶざまに死ぬか。……絵描きの子め」

「ちがう!」

「その腰に下げであるのは形見だべ? 父の形見が、剣ではなく矢立やたてとは、とんだ武士だ」

あざけるように笑う少年たちの声が、つつみに吸い込まれていく。
民治丸は震える手で木刀を握り直した。
それが合図というように、少年たちの声は止み、一瞬で空気が張り詰める。

「大人しく帰れば見逃してやる。さもなくば──」
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取り巻きの少年たちが、いっせいに木刀を構えた。
しかし、年嵩の少年は、腰に手を当てたままだ。
なぜなら、その腰にあったのは木刀ではない。真剣であった。
刀をさやから抜けば大ごと、きっと誰かがケガをする。
いや、死人さえ出しかねない。
三郎は必死に民治丸を止めた。

「民治丸さま、帰るべ、な、うぢさ帰るべ」

「三郎、おまえはあっちさ行ってろ」

「だめだ、相手にしたら、だめだって」

「うるさい、あっちさ行ってろ!」

民治丸に思い切り突き飛ばされた三郎は、人垣にぶつかり、そのまま蚊帳かやの外に弾き飛ばされた。
少年たちはこれ幸いとばかりに民治丸との間合いを詰めていく。

「ほれ、頭下げで、さっさど帰れ!」

「そこを通してけろ。おれは、刑部さまのところさ行ぐ。行がねばならねぇんだ!」

「それが答え、か。…………おい、おまえたち!」

民治丸はあっという間に木刀を取り上げられ、羽交はがめにされた。
もがく民治丸に大きな体躯が近づき、腰から矢立を奪い取る。

「やめろ! 大事なものなんだ!」

「ふん、いきがって、こんなもの」

返せと叫ぶも、かなわない。
抵抗むなしく、矢立は、堤めがけて放り投げられてしまった。

「……なんてことを……」

絶望している民治丸の前で、年嵩の少年は、腰の刀に手をかけた。
そしてゆっくりと、見せつけるように、真剣を抜いた。

「おまえが刑部さまにやったことは、こういうことだ」

鋭い切っ先を鼻に突き付けられ、民治丸は息をのむ。
やいばから不気味な光が放たれていた。

(つづく)